TOP > 特別栽培米の眞木優 日記 > 6/9(水)【播種後19日目…第3回苗踏】
【*お勉強、苗踏み】
苗も人も三つ子の魂百まで
苗踏みで「倒しの名人」の汚名返上!
長澤丈氏
踏まれた苗は倒れないイネに育つ
「三つ子の魂百まで」のことわざがあるように、イネでも幼いときに鍛えられた苗は、田植え後の活着が良く、病気にも強い、そして台風に遭っても倒伏しにくい姿に生長します。どうやって鍛えるかというと、「麦踏みの原理」を応用してイネの苗を踏むのです。
私は、自分の体験をもとに、中に入れる水の量によって重さを調節できるローラー式苗押さえ器(エコネット元気くん)を考案しました。育苗期間が20日の苗なら4回、35日苗なら5~6回、つまり5日に1回くらいの割合で、苗の上をゴロゴロとこのローラーをかけることで苗が変わるのです。
各地で実践する方も増えており、「太くて短く、根の多い苗ができた」「葉の枚数も4葉以上出た」「田んぼでの活着が早かった」「収量が増え、倒れなかった」「倒れても茎の根元が折れずに弓なり状態で、コンバインでの収穫がしやすかった」等々、嬉しい報告が寄せられています。
ずんぐり太く、根張りの良い苗になる
苗を上から踏みつけると、負荷のかかったところが曲がって傷みます。すると苗は、上へ伸びるより傷んだ部分に集中して養分を送るのでしょう。太く短い苗になります。人間でも一度骨折したところは太くなって、二度と折れないというのと似ています。
また、傷を治すための養分をたくさん吸収しようとするからでしょうか、根を多く張ってきます。これを繰り返すことにより、ずんぐりした丈夫で根の多い苗になるのです。
ただし、最初から重い負荷をかけすぎると苗が障害を起こします。これも子育てといっしょですね。具体的な苗の「踏み方」、ローラーのかけ方は下述のとおりです。
ローラーがけの標準的なやり方(30日苗の場合)
1回目 播種日 8日 標準稲丈 30ミリ 葉齢1.5葉
2回目 播種日12日 標準稲丈 50ミリ 葉齢2.0葉
3回目 播種日16日 標準稲丈 70ミリ 葉齢2.5葉
4回目 播種日20日 標準稲丈 90ミリ 葉齢3.0葉
5回目 播種日24日 標準稲丈 110ミリ 葉齢3.5葉
田植え 播種日30日 標準稲丈 140ミリ 葉齢4.5葉
注)
○ローラーの重量は1回目6kg、2回目8.5kg、3回目10kg、4回目12.5kg、5回目以上は15kgが限度。20kg以上の重量をかけると弊害が出る場合がある
○20日苗の場合は4回、24日苗の場合は5回、35日苗の場合は5~6回がローラーがけの目安
○上記事例は兵庫県神崎郡一帯で栽培されている、キヌヒカリ、コシヒカリの場合(播種量は催芽モミ80~100g/箱、 播種日は4月10日~5月10日)
雄町の草丈が20cmも短い!
雄町の草丈が短く、ワラが硬くなったことを説明する額田基由さん
では、ローラーがけを実践する方々の事例を紹介しながら、これによって苗がどう変わるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
岡山県瀬戸町の額田基由さん(65歳)は、ローラーがけを実践して3年。酒米の雄町を130a、朝日を20a、それにヤシロモチを少々栽培しています。
雄町という品種は草丈が150cmにもなり、倒伏すると発芽して品質が悪くなる難しい品種です。なんとか倒伏被害を避けたいと、筆者の指導を受けた額田さんは、ローラーをかけるようになってから一度も倒していません。とくに一昨年の台風禍でも倒れず、JAの指導員に驚かれたほど。昨年は心白が中央にきれいに入った「特等米」を収穫しました。
額田さんの観察でも、ローラーをかけると太くて短い、根張りの良い苗ができるとのこと。下位節間が短くなり、草丈は130cmほどで、一般の雄町に比べて低くなります。しかもイナワラが硬くなるため、正月のしめ縄作りに使えないのが難点だそうです。
ローラーがけした苗は、田植え後の活着が早いので、栄養生長期に分けつが盛んになり、葉の幅も広く、草丈が長くなります。しかし、穂が出るころになると、草丈はローラーがけをしないイネに追い越されるのです。
額田さんがつくるような雄町ではとくに顕著に差が出るようで、額田さんのイネを見たJAの指導員が、ヤシロモチより短いので「なんの品種をつくっているのか」と、あらためてきいてきたほどです。
これには、穂肥のタイミングがよいために、肥料が茎の伸長ではなくて穂の栄養にまわるということもあるでしょう。それにしても、ローラーがけしたほかの人のイネの場合も下位節間が短くなるのは共通しているので、両方の相乗効果だと考えています。
「倒しの名人」が600kgどり名人に
苗押さえローラーの愛好家、兵庫県福崎町の尾崎久一さん(61歳)はもう10年以上も実践しています。ローラーがけを始める前は、近所でも評判の「倒しの名人」だった人ですが、薄播きとローラーがけを併用するようになってからは一度も倒していません。毎年、600kg以上の反収をあげています。
農協で買った苗が変身!
根張りが良いためか、「苗が重い」といった澤田敏夫さんの苗
一方、兵庫県神河町の澤田敏夫さん(70歳)は、コシヒカリで昨年初めて挑戦。農協から購入した苗にローラーがけをしたところ、太くて短い、根の多い苗に仕上がりました。根張りが良いために、苗箱から苗をはずすときに苦労するほど。根の量が多いのと茎が太いからか、「今年の苗箱は重い」と感じたそうです。
休耕後の田んぼで、一部倒伏しましたが、弓なりの状態で完全には倒れませんでした。コンバインでの刈り取りには問題ありません。
ともに同時期に農協から購入した発芽苗を、その後、育苗したもの。播種量はともに催芽モミ140g。ローラーがけしたことで、丈が短く葉齢も進んだ
昨年の本誌4月号の記事やテレビ取材などの影響で、全国から問い合わせを受けました。筆者の経験では、倒伏被害を防ぐには丈夫な苗を作ることで70%は決まると思います。天候や田んぼの土の状態、田植え後の施肥管理、水管理等が残り30%です。
ローラーがけは丈夫な苗作りが簡単にできる唯一の方法です。とくに倒れやすいコシヒカリや雄町・山田錦などの酒米栽培には打ってつけの方法だと思いますので、今年の育苗からぜひ試してみてください。
(兵庫県神崎郡)
*ローラー式苗押さえ機「エコネット元気くん」の入手先=無農薬研究会普及事業部
(有)エコネット・むねざね
http://www.econet-m.com 価格は2万3800円(送料別)